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上場後初の通期決算を出したマネーフォワード社をチェック

家計簿アプリでお馴染みのマネーフォワード社(以下、MF社)が通期決算を発表しました。

2017年11月期 通期決算説明資料

すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる はMF社が掲げるミッションです。 この世界観を実現する為にどのような活動をしてきたのか振り返ってみます。

事業展開

企業買収

紙の領収書などをデータ化する為のサービス「STREAMED」を提供している株式会社クラビスの買収がありました。

MFクラウドの営業を行っていく上で、最も重要なのは大人数を抱える企業に利用してもらう事です。

利用人数による従量課金システムでは、大企業を取り込む事で安定的に高額の収益を生み出す事ができますが、導入のハードルは高く、他社とのコンペに勝つためには強力な武器が必要になります。

創業からの年数が浅い企業はMFクラウドのようなサービスを利用する傾向にあるため、恐らく売りやすいのではないかと推測しますが、大人数を抱える企業では、運用を変える為に社員への周知という大きな教育コストが掛かるので腰が重くなりがちです。

そこで、紙の領収書でも簡単に記帳できるから今までよりも楽ですよという営業が出来るようになればとても心強い訳です。

「STREAMED」をMFクラウドと連携させる事で、「紙ベースの運用は変えないけどクラウド移行したい」という顧客のニーズに応えられるようになるので、MFクラウドの成長は更に加速していくのでしょう。

そんな今後の肝になりえるサービスを持つクラビス社は買収当時、直近の通期売上が1億円で2500万円の赤字という財政状況でした。 そして買収金額は8億円です。

一部では売上1億の赤字企業を8億で買ったと揶揄されているようですが、これから伸びる産業のBtoBサービスで既に黒字化が見えている段階という軌道に乗ったタイミングでの買収だったように見えます。

今回の決算資料(バランスシート)には、3Q決算時に無かった「のれん」に8億円弱が新たに記載されていますので、買収段階でのクラビス社は会計上の価値は低かったようです。

しかしMF社のサービスには既にレシートの読み取り機能がありその精度も悪くないのでは?という疑問がありましたが、その点について買収時のIR資料にて言及されていました。

現時点のアナログデータの取り込み技術について「一部機能を提供しているものの早さ、正確性、使いやすさは不十分」と述べられています。

おそらく、正確性に加えて対応できる証憑書類の幅があるのはMFクラウドにとって今後のセールスポイントになるという事なのでしょう。

となれば、もし今回の買収がライバル企業に先を越された場合、MFクラウドの成長鈍化懸念が発生していた可能性があり、株主からはアナログデータの取り込みを強化するように指摘される可能性が高かったのではないかと思います。

8億円という買収価格は、全株式取得という事なので、創業期の投資家が納得するラインに加えて他社の先を行くための価値なのだと思います。

MF KESSAI

前期に新たに設立した子会社で請求代行サービスをやっています。

この辺りはサービスとして他社との差別化が難しい領域だと思うので、MF社としての知名度が高まれば自然と伸びるのではないかという印象です。

現時点ではネットプロテクションズやラクーンが先を行ってるのではないでしょうか。

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決算内容

「マネーフォワード」と「MFクラウド」といった主力は売上がほぼ倍増となった為、売上高の伸びは順調です。

3Q決算時には26億8千万円という着地予想でしたが、最終的な着地は28億9千万円と短期間で予想を上回る結果でした。

MFクラウドシリーズを横展開で充実させた事で、既存運用を行っている企業を上手く移行させられているという事なのでしょうか。

f:id:koguret:20180121171132p:plain 出典:2017年11月期 通期決算説明資料

マネーフォワードのビジネスモデルとしては、現時点では「プレミアム課金」、「広告」、「BtoBtoC(「マネーフォワード for ◯◯」といった金融機関向けのアプリ提供)」の3つで、ほぼ均等な売上比率となっています。

今回の発表によると、利用者数600万人突破に対して、プレミアムプラン利用者数は12万人のようですが、アクティブな利用者数が600万人よりも少ないと仮定すると3%〜5%近い課金率なのではないかと思います。

ただし、個人的には現時点のプレミアムプランを継続的に利用するメリットはあまり大きいとは言えません。 アマゾンプライムの課金率については16%というデータもありますので、もっと魅力的な機能が提供される事で課金率向上の余地は残っているはずですが、人口からして課金収入自体は大幅に伸びるかどうかは疑問が残ります。 netshop.impress.co.jp

今後は金融機関との提携アプリによるBtoBtoCの売上比率が大きく伸びそうな事と、最近立ち上げた実店舗「mirai talkとの連携によるファイナンシャルプランナーのようなビジネスモデルを見込んでいるのかなと予想しています。

投資妙味

財務基盤を強固にした一年だったので、現時点では負債総額のほぼ倍となる現預金がありますが、現金の使用用途がよくわからないため、今期はどのように活用していくのかを見る年となります。

今のところ赤字が続いているとは言え、実はもう既に黒字化が可能な域には達していそうです。 しかし、更なる拡大を目指すためには現時点で急いで黒字転換する事を目標にはしていないと思われます。

したがって、配当が出るような事は向こう数年無さそうですが、売上増による企業価値の上昇は継続していく可能性は高いと思います。

事業への積極的投資がこのまま続くとすれば、この先1・2年の間に新たな軸となる事業が立ち上がってくると思いますので、投資先としては後2年ほど見てから検討しても遅くないと思っています。